辞めたいの意味

 「なんでこんな会社入ったの?俺もう辞めるよ。」
入社して2日目、簡単な自己紹介の後、先輩から言われた言葉だ。
その言葉から7年が経った。先輩は今年で勤続10年になる。

 私は新卒で入社した会社を3年で退職し、現在の会社に入社した。
前職で疲れ切っていたこともあり、給料のことは一旦無視して、
定時で帰ることができそうな仕事を探した結果、今の事務職にたどり着いた。

誤解がないように言っておくが、事務職だから楽ということはない。
前職では、毎日定時そこそこで帰る事務員を見て羨ましく思ったり、
妬ましく思っていたこともあったが、実際にやってみると事務は事務で辛い。

営業職と違い、数値目標が無い分能力が正しく評価されなかったり、
営業から「誰の稼いだ金で給料もらってんだ」などと言われることもある。
(これは弊社の社員の質の問題かもしれないが。)

 立場上全ての社員と話す機会があり、たくさんの人間からの辞めたいを聞いてきた。
最初はまともに受け止めてしまい、何か良いアドバイスができないかと私自身も神経をすり減らしたり、
当人が抱えている問題を解決してあげようと空回りしたこともあったが、
段々と言葉の意味がわかるようになってきた。辞めたいにも種類があると。

これまでの相談をざっと振り返ってみてもこれくらいの種類があった。
1.辞めたい(本当に辞めたい)
2.辞めたい(と思うくらい忙しい)
3.辞めたい(と思うくらい辛いことがあった)
4.辞めたい(と思う原因になっている人、物事を何とかしてほしい)
5.(今の境遇に満足していると思われると困るのでとりあえず)辞めたい(と言っておく)

大抵目指しているゴールは同じで、「だから、私の話を聞いてほしい。」ということである。
これから話す物語の導入として、その言葉を使っているだけで、
実際に転職が決まったわけでもなければ、そもそも辞めたいと思っていないこともある。
自分の話を聞いてほしいために、インパクトのある言葉を使っているだけなのである。

本当に会社を辞める人間が使う言葉は、「辞めたい」ではなく「辞める」だ。

弊社の場合は、重要な役割を任されている人間の場合、辞めたいと言えば
引き止められながら多少のワガママを聞いてもらえるので、それに味をしめて
何か嫌なことがあったらすぐ辞めたいなどと言い出すどうしようもない人間もいる。
こんな人間がいると周りの社員にも悪影響だし、それをマネて簡単に辞めたいなどと口にする社員が
増えてきているように思う。他の会社にはこんな人間はいるのだろうか。
…やはり弊社の社員の質に問題があるのかもしれない。

特に最近の新入社員が、入社早々に「給料が少ないから辞めたい。」「休日が少ないから辞めたい。」
などと言いだしたときは衝撃だった。
つい、「会社選ぶとき給料とか休日とか確認しなかった?」と口から出てしまいそうになり、
とっさに「まあ初めての会社だし数字だけだとなかなかイメージできないよね。」などと
フォローする羽目になった。
おそらく先輩社員が言っていたことをマネしてるだけだと思うが、
会社を批判する姿がかっこいいと感じてしまうものなのだろうか。

 辞めたいという相談を受けたとき、実際には言えないが、
私の本心は「本当に辞めるつもりなら黙って辞めてくれ」だ。
自分のストレス発散のために周囲の人間にストレスを振りまいて、
しかも結局辞めないとなると、いよいよ腐ったみかんである。
(新社会人の方々には腐ったみかんで伝わるか不安だが。)

 切り捨てることもできるが、前述の通りこの腐ったみかんたちは
なかなか辞めることはなく常に文句を言いながら働き続ける。
だからバッサリと切り捨ててしまうと、今後自分が働きづらい環境になってしまう。

 じゃあどうすればいいかと言うと、問題を出題されていると思えば良い、と私は考えている。
この人が実際何に対してストレスを感じているのか、先回りをしてストレスの元をつぶすことができないか、
次に同じ状況になったとき相談相手に選ばれないためにはどうすれば良いのか、と考えながら聞いてみようと。

大抵、腐ったみかんの言うことは、自分の問題点を棚に上げて一方的に相手を悪く言うだけなので、
素直に聞くことが難しく、適当に同意してしまえば今後その派閥争いのようなものに巻き込まれてしまう上、
あてにならないと判断されると社内の評価にも響いてくるため、付かず離れずのポジション取りが必要になる。

繰り返しになるが、辞めたいと日常的に言うやつは長く働き続ける。
自分がこの先も今の会社で働き続ける気持ちがあるのなら、問題を作っている作者の気持ちを考えて、
腐ったみかんたちからの相談自体を回避するために力を注いだ方が健全だと思う。

立場によっては、回避することができない方もいるだろうが、それだけ重要な立場なのであれば
正面から正論をぶつけて、その他の社員にアフターフォローを任せてみても良いと思う。
実際に私がその立場になったときにその行動がとれるかはわからないが。

 自分も同じように辞めたいと言ってみたらどうか、と考える人もいるかも知れないが、それは悪手だと思う。
辞めたいと言ってきた相手に、自分も辞めたいと言い返すと大抵の場合不幸自慢合戦が始まってしまうためだ。

相手よりも自分の方が不幸な目にあっている、そんな不毛なやり取りを熱く繰り広げることになり、
合戦が終わったところで、ただお互いにストレスが残るだけだ。
それに、相手がストレスを発散する機会を奪ってしまうため、変に恨みを買う可能性もある。

 最後の手段としてはネタにしてしまうことである。
大抵の場合、グチやうわさ話は本人まで届くものなので、現実で同じ会社の人間に言えないことは、
SNS等でまとめてネタにしてしまえば誰も傷つけることはない。
会社の人間とSNS等でも繋がりがある人はサブ垢を作るか、ブログを始めましょう。

また新しいネタが増えた、程度に考えて、どうやったら面白おかしくまとめられるかを考えながら、
くだらない話は聞き流してしまおう。
私の場合、今回はこの最後の手段を使うことになった。

 このような腐ったみかんはどの会社に多かれ少なかれ存在していると思う。
していないのであればいよいよ弊社が腐っているだけかもしれない。
ぜひ似たような体験談があれば教えていただきたい。

 ブログのテーマにでもしようかと思いつきで書き始めたものだったが、
これだけの量になるとは考えていなかった。
私の辞めたいというエネルギーもなかなかなもののようだ。

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